裁判の前後関係(執行と保全)

「差押え」という言葉を聞いたことがあるかと思います。
払うべきお金を払わないでいたら、「給料を差し押さえられた」、「家を差し押さえられた」など。
この「差押え」というのは、裁判手続の中の「執行」という分野のことです。
では「執行」はすぐできるかというと、そうもいきません。「執行」の前には、「訴訟」をして「判決」を得ておく必要があります(「判決」を得る以外にも方法はありますが、ここでは最も一般的な「判決」に絞って説明します)。
これはなぜかというと、「執行」という方法は、その人の財産を国家権力が強制的に奪うことになる方法ですし、差し押さえを受けた人は社会的信用を失うことになるので、間違ってなされることがあってはいけないからです。 もう支払済みなのに差押えを受けるとか、全く無関係な人が差押えを受けるということは、決してあってはならないのです。
そのために、訴訟で詳しく証拠調べをして、裁判官が「判決」というお墨付きを与えたのであれば、間違いはないだろうということで、事前に「判決」が必要とされているわけです。

このように、「執行」の前には「訴訟」をしなければならないのが原則ですが、訴訟はすぐに終わるというものでもありません。 短い場合は1回の裁判期日で終わることもありますが、争いのある事案では半年、1年、2年など、判決までに時間がかかります。 その間に、相手が持っている不動産を売って逃げてしまったらどうでしょうか。蓄えていた預金を下ろして使ってしまったらどうでしょうか。 せっかく訴訟で全面勝訴の判決を得たとしても、回収のあてがなくなってしまい、訴訟をした意味がなくなってしまいます。
このような時のために、「保全」という裁判手続があります。訴訟をしていたのでは間に合わない、勝訴判決をもらう頃には 相手の財産が無くなっているおそれがある。そんな時は、訴訟にする前に、相手に財産を処分できなくさせるのです。いったん凍結状態にしておけば、安心して訴訟を進められ、勝訴判決を得たときにその財産への差し押さえもできるわけです。判決のような確たる根拠がないので、訴訟が終わるまで「仮に」押さえておくことから、「仮差押え」とか「仮処分」といいます。
このように、判決を得る前に、一時的に行うものを「保全」といいます。「保全」としての「仮差押え(仮差し)」に対して、「執行」としての「差押え」のことを「本差押え(本差し)」と呼ぶこともあります。
とはいえ、保全手続も、判決前に相手の財産処分権を奪うという重大な手続きですので、相応の要件を充たさなければなりませんし、保証金を裁判所に積む必要があります。

「保全」、「訴訟」、「執行」それぞれの順序や前後関係を知っておくと、裁判手続全体の理解に役立つと思います。「執行」は一般の方でも行えるでしょうが、「訴訟」や「保全」は、高度な専門知識が必要ですので、弁護士に依頼する方がよいでしょう。

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